【御殿場の道:1】旧鎌倉往還
内陸と海をつなぐ道
旧鎌倉往還とは
「旧鎌倉往還」という道がある。単に「鎌倉往還」や「鎌倉街道」と呼ばれることもあるが、幕府が置かれた鎌倉と各地を結んでいた道のことなので1つだけではなく、鎌倉からいくつもの旧鎌倉往還が伸びている。
富士山付近の旧鎌倉往還は、鎌倉から相模(神奈川県)を通り足柄峠を越え、駿河(静岡県)に入って竹之下(小山町)に下り古沢(御殿場市)を通過して、須走(小山町)を登って籠坂峠を越えて甲斐(山梨県)に至る。
名称に「鎌倉」と付いているため鎌倉時代に誕生した道のように思われがちだが、ルートそのものは古代から存在していた。
内陸から海をめざす道
人が自分の足で歩くしかなかった時代には、人の移動ルートつまり道は、地形によって制限されることが多かった。
富士山周辺で見れば、(1)富士山とそれに連なる丹沢山地、(2)愛鷹山、(3)箱根の3つ山地は、移動するうえで制約になった。
しかし、交易などのために内陸部と海(沿岸部)の間を移動する必要はあったため、困難な山越え(峠越え)を伴う移動がおこなわれてきた。
甲斐から海に向かう道は古くから富士山と丹沢の山を越え、(現在の)小山町や御殿場市北部を通り、箱根北部の足柄峠を越えて相模に至るルートをとっていた。旧鎌倉往還のルートと重なる。つまり富士山周辺の旧鎌倉往還は、本質的には内陸と海を結ぶための道と言える。(※古代東海道につながる道という側面もあるが、別テーマにて取り上げる)
律令時代になると各地の国府をつなぐ道(官道)としての政治的な位置づけも加わり、鎌倉時代には幕府が置かれた鎌倉と駿河・甲斐を結ぶ、文字通りの鎌倉往還、鎌倉街道となった。
なお、御殿場 - 籠坂峠 - 山中湖の区間は、甲州(甲斐)につながる道なので「甲州街道」とも呼ばれる。一般的に甲州街道というと、江戸と甲斐を結ぶ江戸時代に整備された五街道のひとつを指すが、呼び名は同じで内容は異なる。
籠坂峠
籠坂峠を越える道は古くからあったが、変遷もあった。
山梨側から富士山・丹沢を越えるには、現在は籠坂峠を越えて須走に下るのが一般的である。しかし昔は籠坂峠がたいへん険しかったため、約3km東のヅナ峠を越えて小山町の中日向に降りるルートも使われたという。1707年(宝永4年)の富士山宝永山の噴火によって籠坂峠に火山灰などの噴出物が積もり、地形がなだらかになり歩きやすくなったことで、籠坂峠の利用が増したという。
また、年配者はご存知だろうが、以前は籠坂峠を越えるのはひと苦労で、御殿場を出た車は須走近くになると山ひだを折り返しながら細い道を何度もカーブしながら峠を登っていったものである。
【参照】籠坂峠周辺の道の険しさは、三島由紀夫をはじめ多くの作家が書いている
⇒ 三島由紀夫の『豊饒の海』を読んでみる
その後、昭和から平成にかけて道路の改修が進んだり、それまでの道(旧道)から少しルートを変えてカーブの少ない道が作られることが何度かあった。そのたびに「籠坂峠も通りやすくなったなあ」「山梨が近くなったなあ」と感心したものである。
時代はさかのぼるが、明治後期から昭和初頭にかけて、馬車鉄道が御殿場 - 籠坂峠 - 大月を結んでいたこともある。
【参照】馬車鉄道の記事があります ⇒ 馬車鉄道の面影を探して
2021年(令和3年)4月10日(土)には国道138号線バイパスが開通し、より通行しやすい自動車道の運用が開始された。
このように、時代ごとに籠坂峠越えの改善や輸送力の増強がなされてきたのは、このルートが人の暮らしに欠かせない重要な道であり続けていることを示している。
古沢 - 竹之下 - 足柄峠
箱根を越えるには、古くから足柄峠が使われてきた。現在は小山 - 山北 - 松田を国道246号線や東名高速道路がつないでおり、そちらを通ったほうがよさそうに感じるかもしれない。しかし、そのルートは明治時代に東海道線(現在の御殿場線)が開通したときに本格的に開かれた新しいルートである。
丹沢と箱根にはさまれた鮎沢川・酒匂川が流れる急峻な渓谷地帯であり道は険しく、山裾を蛇行しながら歩くことになるため道のりも長く通行は容易でなかった。小山 - 山北 - 松田は現代的な土木技術が導入されたことでようやく本格的な通行が可能になったルートなのである。それまでは山中を普通に歩けばよい(といっても、かなり険しかったが)足柄峠越えのほうが、はるかに歩きやすいルートだった。
古沢の一幣司浅間神社は平安時代の863年(貞観5年)の創建と伝えられる。古沢は幹線街道の道筋にある神社の門前町だったわけであり、江戸時代以前は各地から物資が集まり市が立ち賑わった。
足柄峠ふもとの集落は竹之下であるが、昔の表記は「嶽之下」であり、「嶽=険しい山」の下という意味である。「嶽之下神社」などに古い表記が残されている。
足柄峠は史跡やハイキングコースとして整備されているが、籠坂峠とは異なり、幹線道路としての役割は終えている。
静岡県 - 神奈川県を結ぶルートは、現在は小山 - 山北 - 松田を経由する御殿場線、国道246号線、東名高速道路、新東名高速道路(建設中)が担っている。さらにそれを補完するのが、御殿場から乙女峠を越え箱根仙石へ出て、箱根湯本を経由して小田原方面へ抜ける国道138号線と国道1号線である。
動画に写っています
このページでとりあげた場所がいくつか動画に写っています。
⇒ ヘリコプターで遊覧飛行 上空からの発見と驚き
メモ
大きなテーマのため、旧鎌倉往還の概要のみ記しました。さらに詳しく見ていくと、興味深い史跡や話題がたくさんあるため、今後取り上げていきたいと思います。