広大な平原を馬の群れが走った
御殿場の時代劇ロケ地の変遷
▼CHAMBARA 河原健二監督に聞くロケ地・御殿場の魅力
▼『CHAMBARA』ロケ地周辺
『CHAMBARA』は御殿場市富士岡地区の水田が連なる場所で撮影された短編映画です。人工物が写り込まない広いロケ地は貴重で、近年何度かこの場所で短編映画やTVドラマの撮影がおこなわれています。
御殿場では昭和始め頃から映画ロケがおこなわれるようになり、新型コロナ感染症拡大前の2019年度(令和元年度)には、年間約50作の映画・TVドラマ・CM・ミュージックビデオ・ネット配信動画などが撮影された。
近年のロケの大半は市街地や住宅地などでおこなわれているが、元々御殿場がロケ地として利用され始めたきっかけは、人工物ひとつない広大な風景の中を多数の馬が疾走するシーンが撮影可能だったためである。
富士山麓に大野原が広がっていたこと、農耕馬を飼育していた農家が多数あり手配が可能だったこと、東京から東海道線と御殿場線で移動が容易であったことなどが要因となって、戦前から時代劇を中心に映画ロケが始まった。
御殿場のシーンが確認できているもっとも古い劇場公開映画は、滝沢英輔監督『戦国群盗伝』(1937年/昭和12年公開)である。
その5年後の『富士に立つ影』(1942年/昭和17年公開、演出:池田富保・白井戦太郎)といった映画もフィルムが残されている。
▼滝沢英輔監督『戦国群盗伝』(1937年/昭和12年公開)複数の馬と宝永火口をのぞかせる富士山
▼『富士に立つ影』(1942年/昭和17年公開)疾走する馬の脚の向こうに愛鷹山
黒澤明監督は生涯全30作品のうち10作品(現代劇を含む)で御殿場ロケをおこなったが、ほかにも多くの監督たちが御殿場の「広大な風景」や「馬」を利用した撮影をおこなっている。
▼黒澤明監督『蜘蛛巣城』(1957年/昭和32年公開)大規模な騎馬隊と足軽隊
▼稲垣浩監督『大阪城物語』(1957年/昭和32年公開)足軽の隊列の背後に愛鷹山
板妻や滝ヶ原など大野原近くでの撮影が多かったようだが、富士山御殿場口新五合目付近(太郎坊付近)もロケ地として利用され、黒澤明監督『蜘蛛巣城』(1957年/昭和32年公開)、渡辺邦男監督『明治天皇と日露大戦争』(1957年/昭和32年公開)、黒澤明監督『乱』(1985年/昭和60年公開)などが撮影されている。
純粋な時代劇ではないが、TVドラマでは堺正章が孫悟空を、夏目雅子が三蔵法師を演じた『西遊記』(日本テレビ、1978年/昭和53年~1980年/昭和55年放映)が大野原周辺で撮影された。後年出演者たちが御殿場ロケのエピソード(演習中の自衛隊の戦車がロケ現場すぐ近くを通ったなど)を語っている。
1950年代頃から1970年代頃の映画の時代劇を見ていくと、多数の作品で御殿場ロケがおこなわれており(富士山の山裾や、市外の愛鷹山や金時山などが背景に写り込んでいる)、当時の時代劇の制作本数を考慮すると、現在調査中ではあるが、少なくとも数十作以上のロケがおこなわれたようである。
その後、馬が多数登場するような時代劇の制作本数自体が大幅に減少していったり、農耕馬の減少や、開発によって人工物無しに広範囲が見渡せる場所も減少するなどして、大平原を多数の馬がかけめぐるようなロケは減っていった。
それでも部分的なロケは時折おこなわれ、玉穂地区に周囲を林に囲まれた「馬頭塚」という場所があり、広さと自然の景観が要求さるロケにたびたび利用された。樋口真嗣監督『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(2008年/平成20年公開)の火祭シーン、原田眞人監督『関ケ原』(2017年/平成29年公開)の一部シーンなどがそうである。
馬頭塚はTVドラマや再現ドラマなど現代劇の撮影にも利用され、地面に大きな穴をいくつも掘ったり、木を植えたりといった大がかりな仕掛けが可能なロケ地として関係者に重宝された。しかし、2020年にスポーツ公園「遊RUNパーク玉穂」の一部として整備され、それまでのような利用は困難になった。
▼馬頭塚(2017年7月・8月撮影)
馬頭塚に代わるロケ地として利用されるケースが出てきたのが、ページ冒頭で紹介した富士岡地区の水田地帯である。萩蕪~中山~二子の黄瀬川沿いの一帯で、市街化調整区域のため両岸に住宅などの建造物がほとんどなく、林や藪に囲まれて水田が広がっている。地元のNPO法人「富士の麓・水と緑と風の会」が付近を「黄瀬川 四季の小径」として整備しており、散策する人を見かける。
御殿場で撮影された、もっとも古い映画は?
劇場公開映画のうち、確認できているもっとも古い作品は1937年/昭和12年公開の『戦国群盗伝』です。さらに古い1926年/大正15年公開の『富士に立つ影』が存在するそうで、それには大正時代の御殿場が写っている可能性があります。しかし、1926年/大正15年版は無声映画であり、無声映画はトーキー登場後に無価値とみなされ、ほとんどのフィルムは散逸してしまったため現存する可能性はきわめて低いと思われます。
「いや、1926年/大正15年版『富士に立つ影』は、あそこに保管されているぞ」「御殿場が写っている別の古い映画を知っているぞ」という方はお知らせください。
メモ
■このページで解説したのは「視界に人工物の入らない広大なロケ地」です。二岡神社では社殿を写し込んだ時代劇や現代劇などが今も頻繁に撮影されています。市街地や住宅地でもロケが多数おこなわれています。
■このページで紹介した『戦国群盗伝』は1937年/昭和12年公開の滝沢英輔監督作品です。三船敏郎・鶴田浩二主演の杉江敏男監督『戦国群盗伝』(1959年/昭和34年公開)もありますがリメイク版であり、滝沢英輔監督作品がオリジナルです。
■富士岡の「黄瀬川 四季の小径」はコロナ禍で管理が十分に出来ない等により、NPO法人「富士の麓・水と緑と風の会」は現時点では利用を積極的には推奨していないようです。また農地(私有地)に挟まれた細い道を歩くことになりますので、利用する場合は自己責任でマナーを守った上で散策等おこなってください。
■このページ冒頭で紹介した短編映画『CHAMBARA』の説明はこちらにもあります。
▼[御殿場ロケ作品]CHAMBARA(チャンバラ)
http://gotembafilm.net/screen/2021/chambara.php
■このページで紹介した映画『富士に立つ影』の説明はこちらにもあります。
▼[御殿場ロケ作品]富士に立つ影
http://gotembafilm.net/screen/1942/fujinitatsukage.php
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