御殿場之魅力発掘隊

黒澤明『七人の侍』ロケ地探訪

1953年/昭和28年11月、御殿場ロケ実施

▼『七人しちにんさむらい』の御殿場ロケのようす。1953年/昭和28年11月
左の屋根の向こうに映画用シネカメラが、画面中央に野武士のぶし騎馬きばが見える

▼【左】1953年/昭和28年
  上の写真の縮小
▼【右】2020年/令和2年
  ドローン撮影

黒澤くろさわあきら監督は生涯に30本の映画を監督し、そのうち10作品で御殿場ロケをおこなった。世界中の映画人に影響をあたえた名作『七人の侍』もそのひとつである。東京・神奈川・静岡の3都県が撮影地となり、御殿場ロケは映画公開前年の1953年/昭和28年11月21日に始まった。

「村の西側」のロケ地は複数

御殿場ではいくつかのシーンが撮影され、なかでも迫力があるのは「村の西側」の襲撃シーンである。このシーンは、スクリーン上では連続したひとつながりの場面として違和感なく見ることができるが、じつはまったく異なる場所で撮影されたカットをつなぎ合わせたものである。

山のいただきに野武士たちが乗った馬が多数現れ、村をめがけて斜面を駆けおりる。そのカットは函南町の下丹那しもたんなで撮影されている。
続いて、百姓たちが防御のために築いた木の柵まで走って迎え撃ち、柵をはさんだ激しい戦いになる。この部分は御殿場で撮影されている。

このときのロケ現場のようすが、ページ冒頭のスチール写真である。映画では望遠レンズで画面の一部分を切り取っているため周囲のようすがわかりにくいが、このスチール写真では背後の山の稜線まで写っており状況が見てとれる。

謎だった「村の西側」のロケ地

この一帯は茅葺かやぶき屋根のための茅刈場かやかりばや麦畑で見晴らしが良かったが、後に杉や桧の植林が進み、現在は成長した木々が視界をさえぎっている。また、スチール写真からわかるとおり、映画の撮影はシネカメラを屋根の高さほどあるイントレ(撮影用の足場)の上に設置しておこなわれたようで、視点がかなり高所にある。いま現地に立っても(仮に木々が無くて見晴らしがよくても)地面から背後の山を見上げることになり、スチール写真とはだいぶ印象が異なる。

そういったことも場所の特定を困難にしたのだろう。御殿場における「村の西側」のロケ地には説があったものの、確定したとは言い切れない状態が続いていた。
今回、地元の方から『七人の侍』のロケをおこなったという証言が得られたことが決定打となり、場所の特定に至った。それがなければ、わからずじまいのままだったかもしれない。

ドローンで地形の一致を確認

ページ冒頭の右側の写真はドローンで上空から撮影したものである。山の稜線が一致し、木々の生え方にも特徴があることから「村の西側」であることがわかる。野武士が襲来した道が木々の間に今も通っており、曲がり具合が映画やスチール写真と一致している。
現在は近くに住宅が建ちならび、ここが『七人の侍』のロケ地だったとは、すぐには信じがたい場所である。

御殿場では黒沢明監督のほかにも多くの映画監督がロケをおこなっており、印象的なシーンや重要なシーンが撮影された場所が多数存在する。

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※現地へのアクセス方法は掲載しませんがご了承願います。今後追加できる情報があれば、このページに公開していきます。
※ドローン撮影は関連法規を順守のうえでおこなっています。

御殿場で撮影されたのはこれです

このぺージで紹介した御殿場で撮影されたシーン(村の西側)が約5秒間のみ、YouTubeに公開されています。
2:18~2:23付近で、野武士の騎馬の群れが手前に走ってくるところです。

▼七人の侍(プレビュー)YouTubeムービー

※御殿場では、ほかにも『七人の侍』のロケが複数ケ所でおこなわれています。


さらに詳しく知りたい人のために
── 関連書籍紹介 ──

『七人の侍』ロケ地の謎を探る

『七人の侍』ロケ地の謎を探る 単行本(ソフトカバー)
高田雅彦 (著), 岡本和泉 (イラスト)

黒澤作品のロケ地を解説した本はこれまでも数冊出版されているが、この本は『七人の侍』をメインにした最新書。
一般公開されていない東宝のスチール写真、航空写真、3D地形ソフト・カシミールなどを利用した現地調査の経緯と結果を、豊富な写真とイラストをまじえて紹介している。御殿場のロケ地の詳細説明もある。ぜひご覧ください。

なお、当サイト掲載の東宝スチール写真の選定にあたっては、本書著者の高田雅彦氏にご教示いただきました。

【関連ワード】The location for“7samurai”in Gotemba,黒沢明,Akira kurosawa,Seven Samurai
(Text by TK. ページ公開:2021/03/10
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