『ホラ吹き太閤記』ロケ地探訪
御殿場で撮影されたコメディ時代劇
御殿場では戦前から映画ロケがおこなわれ、『七人の侍』など黒澤明監督作品が撮られたことでも知られています。富士山のふもとの大野原で馬が疾走するシーンの撮影が可能だったため、時代劇を中心に黒澤作品以外にも数多くの映画が撮影されました。
ここで紹介する『ホラ吹き太閤記』(1964年公開、古澤憲吾監督)もそのひとつで、植木等が豊臣秀吉を演じたクレージーキャッツ初の時代劇です。クレージーキャッツといえばコメディ映画ですが、令和のいまの目で鑑賞すると、本格的時代劇です。足軽役のエキストラや馬の数だけを見ても、手間とお金をふんだんにかけた映画づくりに驚かされます。
オープニングで「協力 国宝姫路城」という字幕が出るため、ロケの一部が姫路城でおこなわれたことはわかるものの、御殿場でロケがおこなわれたことは一般的には知られていなかったと思います。
今回、映画研究家の高田雅彦さんから、御殿場でロケがおこなわれたという情報を提供いただきました。高田雅彦さんによると、俳優の小松政夫さん(当時、植木等の付き人を務めていた)にインタビューしたところ、『ホラ吹き太閤記』のロケで植木等に同行して小松政夫さんが御殿場に滞在したときのエピソードが語られたとのこと。
さて、『ホラ吹き太閤記』のロケは、御殿場のどこでおこなわれたのか? 2022年某月某日、高田雅彦さん、ロケ地見学ツアーなどを企画・運営している岡本和泉さんら東京からの調査メンバー一行と、御殿場メンバーとで、御殿場市内を探索しました。その結果(のごく一部)を紹介します。
宿場のシーン
▼『ホラ吹き太閤記』冒頭、「三河の国の、とある宿場に……」とナレーションが流れるシーン
▼赤枠内の背景の山に注目
▼左側の丸く突き出た山は、地元民にはおなじみ金時山です
▼御殿場市板妻/神場付近から見た金時山(2022年撮影)
宿場のシーンをコマ送りや静止画で見ると、背後に写り込だ山並みに気づきます。画面左上には、丸く突き出た特徴的な形の山が見えます。
御殿場住民には説明するまでもありませんが、山並みは箱根外輪山であり、丸く突き出た山は金太郎伝説のある金時山です。金時山は見る場所によって形を変えますが、御殿場市板妻付近や神場付近から見ると宿場シーンの金時山にほぼ一致します。ピンポイントで「この場所!」と特定するにはさらに調査が必要ですが、おおよそ現在の太平洋クラブ御殿場コース(板妻)付近や富士山エコパーク焼却センター(神場)付近がロケ地だったと思われます。
宿場シーンの道の前方や、現在の写真を見ても、周辺は茅(かや)が生い茂った富士のふもとの大野原の一角です。何もない原っぱにセットを組んで宿場を造っているのです。手間とお金をかけて時代劇を制作できた時代の映画です。
▼金時山が写り込んだ別のシーン。鉄砲隊が射撃訓練中
進軍シーン
『ホラ吹き太閤記』終了付近で、植木等扮する豊臣秀吉一行の進軍シーンがあり、ここでも背後に山並みが写り込んでいます。
▼背後の山の稜線に注目
▼御殿場市神場(富士山エコパーク焼却センター駐車場)から見た箱根外輪山(2022年撮影)
箱根外輪山の山裾が、左から右へ長く伸びています。このシーンも御殿場市板妻や神場付近で撮影されているようです。
『ホラ吹き太閤記』には、御殿場で撮影されたシーンが他にもたくさんあります。今回は背後の山の形を手がかりに、2つのシーンを紹介しました。
今だから! 植木等 “東宝クレージー映画"と“クレージー・ソング"の黄金時代
高田雅彦 著
2022年、アルファベータブックス刊
同書収録「特別インタビュー 小松政夫 大いに語る」にて、『ホラ吹き太閤記』の御殿場ロケが台風で撮影休止になったときのエピソードなどが語られています。
※報道・研究を目的として、映画『ホラ吹き太閤記』のスクリーン画像を引用しています。
※『ホラ吹き太閤記』ポスター画像はyoutube.comより、『今だから! 植木等』表紙画像はamazon.co.jpより、それぞれ商品紹介を目的として転載しています。